2022.04.01

修士論文を執筆して 清水千春(教育・臨床心理専攻博士課程前期2年 臨床心理分野)

清水千春「当事者活動に参加するひきこもりの心理的回復過程―『居場所』という視点から―」

本研究は,数あるひきこもり支援のうち,近年注目が集まっている「当事者活動」に焦点を当てました。ひきこもり当事者団体に所属している,もしくは,していた方を対象に,当事者活動の中で変化していく個人の「居場所」感に焦点を当てて,そこで経験する心理的回復過程を明らかにすること,当事者活動によって変化を促す「居場所」の機能について検討することを目的としました。なお、本研究における「居場所」とは、「『ありのままでいられる感覚』と『役に立っていると思える感覚』という2つの感覚が関連している場所(石本、2010)」と定義しました。この定義と、「参加者から参画者に変化するプロセス(田中、2017)」をもとに、「心理的回復過程」を居場所内における個人の行動や気持ちの変化から考察しました。

この目的のために,W市内にある3つの団体に御協力を頂き,対象者5名に半構造化面接を行いました。面接では,居場所感に関すること(「居場所」と感じる瞬間や出来事は何かをカードに記入,それらを時系列に並べるとどうか,一枚一枚をラベリングするとどうか),居方に関すること(カードの時系列ごとに来始めてから今までどのように過ごしてきたか),そのほか(来てよかったと思うこと,変化を促したと思われる要因,今日のインタビューの感想)の3点を尋ねました。インタビューの結果は事例ごとに図にまとめました。

その結果,当事者たちは,今自分が置かれている現状を変えようという欲求から,当事者活動に参加していることが示唆されました。また,他のメンバーやスタッフとともに「安心」に包まれながら「参加者」として過ごしていく中で,次第に「やってみよう」と主体性が出てくるようになると,集団の中で「ピアサポーター」など自身の役割を見出し、「参画者」となったり,集団を安全基地として,就学や就労など,外へ飛び出したりすることが明らかになりました。

これらの結果から,「居場所感」と「居方」の変化を促進するものには,メンバーとスタッフの存在が重要であると考えられました。メンバーは,「傷つきを前提とした付き合い」や「ひきこもり」以外にも趣味や同じ時間や空間を過ごすといった様々な共通点によって,互いに背中を押しあっていると考えられました。またスタッフは集団の中でメンバー通しをつなぎ,いつでも受け入れ、いつ来てもいつ帰ってもいい自由な雰囲気を作り上げていました。