2024.10.03

私の最近の研究について 渡部智也:英語学英米文学専攻

私は大学院生時代から一貫してイギリス19世紀の文豪チャールズ・ディケンズの作品に見られる「眠り」の描写の研究をおこなってきました。ディケンズは作家人生のごく初期の段階から眠りや夢に強い関心を持ち、それを作品に巧みに用いていました。彼の作品における眠りの描写の意味と役割を探求するのが、私の基本的な研究テーマです。

このテーマは今なお取り組んでいますが、一方で最近は別ベクトルでのディケンズ研究もおこなっています。特に現在おこなっているのは、ディケンズとアメリカの作家エドガー・アラン・ポーを、「探偵小説」という視点で比較する、という研究です。ポーは「探偵小説の父」の異名を持ち、探偵小説の生みの親ともされる作家です。一方のディケンズも、作中に初めて「被害者=加害者」という替え玉トリックを用いた作家とされ、探偵小説史の中で重要な人物として位置づけられています。しかもこの二人は大西洋を挟んでほぼ同時期に活躍し、1842年の3月9日にはフィラデルフィアで対面も果たしているのです。このように共通項を持つ二人の比較研究はこれまでもなされてきましたが、十分なものとは言えません。この二人の描いた「探偵」を比較し、その描写に両者の作家としての芸術性の違いが端的に表れていることを示すのが、現在私のおこなっている研究です。

元々この研究は2019年10月にディケンズ・フェロウシップ日本支部でおこなったシンポジウムでの研究発表からスタートしています。その後、同シンポジウムを企画した松本靖彦先生(東京理科大学)の科研プロジェクト「ディケンズとポー:作品と書評に見る相互照射」(基盤研究(C)、課題番号:21K00351)に共同研究者として加わり、このテーマを追求しています。現在、この研究成果を共著書にまとめる作業をおこなっており、2025年度中に出版予定ですので、興味深くお思いの方には、出版された際に目を通して頂けますと幸いです。なお、私の元々の研究テーマである「眠り」と、現在研究している「探偵小説」の間には、隔たりがあるように思われるかもしれませんが、実は両者は密接につながっています。スペースの都合上、その点についてここには詳しく書けませんが、上記の研究発表の様子が以下の学会HPで公開されており、その中で説明していますので、是非こちらもご覧ください。

 

ディケンズ・フェロウシップ日本支部2019年度ヴァーチャルカンファレンスページ:

http://www.dickens.jp/agm/2019/vod.html