2024.08.23
私の最近の研究について 西谷正浩:史学専攻
2021年に『中世は核家族だったのか:民衆の暮らしと生き方』(吉川弘文館)という本をだしました。本のカバーには、久隅守景の「納涼図屏風」(東京国立博物館蔵)を使わせていただきました。小さな家に立てかけた夕顔棚の下に筵を敷いて夕涼みをする農民の家族を描いています。17世紀後半の作品ですが、日本前近代の核家族の情景といえば、おそらく多くの方がこの絵を思い浮かべるところでしょう。
中世民衆の家族に関しては、史料が極めて少なく、実態がわかっていません。私がこれに取り組むことになった発端は、『岩波講座 日本経済の歴史』の企画に参加し、「中世の農業」を担当したことにあります。中世農業の展開を体系的に説明するには、土地条件や農業技術、経営主体のあり方などが主要な論点になります。そして、経営主体の問題は、とくに家族の存在形態と密接に関わっているのです。
中世の民衆家族と農業の動向を主題としたこの本では、日本史研究に隣接する諸学問から多くのことを学びました。民衆家族については、文献史料の不足が高い壁として立ちはだかっていましたが、考古学や建築史の研究では、住居のようすが具体的に検討されていました。そうした知見を踏まえて史料を精読すると、これまでみえなかった民衆家族の姿に迫っていく道が開けてきました。